日本は、第二次世界大戦後、急速に油の使用量が増加し、脂肪の摂取量も急増してきました。それとともに、ガンや心臓病、成人病など生活習慣病が増加するようになってしまいました。
たとえば、糖尿病患者は、現在、人口の1割存在し、しかも、その潜在的な予備軍、つまり、食事後の血糖値の下がり方が少ない人が2割もいるのです。これにはいろいろな要因が考えられますが、脂肪の摂取量とも大きく関係しています。
ところで、日本人の脂肪摂取量を、中国料理が主に食べられている香港とくらべてみると、香港は日本と同じか、あるいは少し下回る程度にすぎないのです。中国料理は油をつかうものが多いはずなのに、これは、どういうことでしょうか。それは、おそらく調理のしかたに原因があると推定することができます。
一般に、本格派中国料理での、油で炒める場合の調理法を見ると、材料を強火でさっと油通しし、これを油切りの上にあけてしっかりと油を切ります。また、材料によっては、油で軽く炒めた後、湯を加えてさっと茄で、それを油切りの上に移して、油を多量に溶かした湯ごと切ってしまうのです。この方法では、余分な油はすべて分離されます。つまり、材料を油処理しても、食べるとき、材料に付着している油は非常にわずかなのです。
一方、日本式の中国料理の調理方法では、油をたっぶり入れた鍋で材料を炒め、そのまま皿に盛りつけてしまいます。つまり、使用した油はすべて料理の中に入ってしまうことになります。このように、油通しと油炒めとでは、油の摂取量に大きな差が生じます。ここから、香港よりも日本の方が、わずかといえども脂肪摂取量が多いという結果につながったものと見て間違いないでしょう。
油通しだけなら火を通す時間が短いので栄養分の損失は少ないし、風味もよいので食欲も増進します。日本の油使用の歴史は浅いのです。とくに、食用油の使用量は大変少なく、油炒めといった概念は過去にはなかったものです。
急速に油を使った料理が普及した背景には、油の摂取が栄養向上につながるという考え方もあったようです。そこで短絡して、油で炒めれば、何より調理が手軽である上に、どんなものでも栄養素の利用がよくなるといった誤信があったようです。いずれにしても油のとりすぎから身を守るためには、中国料理の手法をもっと学ぶ必要がありそうです。
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