時代はこんなに便利になったのに病気が増えてしまうのはなぜか

19世紀までは盲腸炎はなかった

アメリカのマクガバン・レポートの5000ページを超える大レポートは、単に健康という観点からだけでなく、文明史の資料としても貴重なものです。多くの専門家、医師、看護師、栄養士がこのレポートを目にするでしょう。

この文明史の一大資料が明らかにしたのは「文明が進めば進むほど人間はより不健康になる」という皮肉な事実です。しかし、本来、文明とは人間を不健康にするのを目的として進歩すべきものではないはずです。

少なくとも、われわれが昨日までその中に住んでいた20世紀文明は、結果としてはそういう事実をもたらしといっていいでしょう。
これは根本的には20世紀文明が間違った考え方をその文明の哲学としてきたからです。

ここでは不健康に、不健康に、という方向に進んできたわれわれの文明の1つの実例だけを紹介し、その結果として、その文明の中に生まれた食生活の1つのアンバランスな姿を見ておきましょう。

「文明化、つまりウェスタナイゼーション(西洋化)が悲劇をアフリカにもたらした」そして「西洋人はろくなことをしないので困る」というと、親切そうな温顔を曇らせて申し訳なさそうにつぶやきます。

「われわれはロング・ピープル(間違った民族)なんだな」マクガンレポートの中の証言の中にきわめてわかりやすい実例がありました。それはこんな証言でした。

『盲腸炎という病名が医学の中に初めて登場したのは1886 年で、それまでこんな病気はありませんでした。そしてそれは、小麦粉をふるうふるいの目が細かくなった頃と一致します。
工業技術が進歩して、その頃に目の細かいふるいがつくれるようになったのです。目の細かいふるいだと製粉カスのふすまも沢山すくい取られ、小麦粉のほうにはあまり残りません。つまり小麦粉はそれだけ白くなるということです。そして、これは知らぬ間に人間のとる繊維の量を減らすことになりました。
繊維はふすまの中に多いから。そして腸の働きをよくする繊維が少なくなったために、腸の働きの悪さが原因になる新しい病気、盲腸炎も病気のニューフェイスとして登場したというのです。
つまり工業技術の進歩という文明の進歩は、人間をそれだけ不健康にする結果になったのです。』

さらに一言つけ加えると、20世紀初め、ロンドンのある大病院で手術する盲腸炎患者は年間5人ぐらいでした。1000人を超えるというように200倍以上になっていたというのです。文明は200倍以上進歩して、病気も200倍にしたということらしいのです。

現代人の生命の鎖は弱体化している

ところでこのように進歩に比例して人間をより不健康にしてきた現代の文明は、ビタミンやミネラルといった微量の栄養物質の観点から見た場合には、いまどんな状況になっているのでしょうか?

それを詳しく見るのには、前にも出てきた「生命の鎖」理論と博士の半健康人の定義をここで紹介しておいたほうがいいでしょう。

半健康人の定義には自分も思い当たるという方がかなりいそうです。われわれの健康、つまり生命の維持のためには50種ほどの栄養素がバランスよくとられていることが不可欠なことを明らかにし、これらの栄養素が体の中で協力し合って生命活動を維持している様子を「生命の鎖」とあらわします。

「生命の鎖」という表現は意味深く、しかもバランスのとれた栄養の大切さをよく表現したものになっています。この鎖は図に措いてみれば、1つ1つの鎖の輪が結びつきながら全体としては1つの首輪のような輪を形づくっていると考えてみると意味が理解しやすいかもしれませn。この鎖全体の強さ、つまり生命力の強さは1つ1つの輪の強さ次第ということです。

仮に50の輪が1つ1つ繋がって全体の鎖をつくっているとしましょう。この全体の輪は、49九の輪がどんなに強くても1つでも弱い輪があれば、その弱い輪の所で切れてしまうのです。全体の鎖の強さは、だから弱い輪のレベルで決まってしまいます。

つまり弱い輪が1つでもあれば全体としての鎖は、その弱い輪のレベル以上に強くなることはできないのです。ビタミンC の輪が極端に弱くなれば、他の輪が強くても壊血病になるといったのもそういうことになります。

「生命の鎖の強さ、つまり健康のレベルは、体に不可欠な栄養素がどれもバランスよくとられていなければ高い水準には維持できません。他の栄養素がいくら十分にとられていても、1つでも不足していれば、全体の健康レベルはその不足したもののレベルにまで低下してしまうということです。

生命の鎖を構成する栄養素は8種類の必須アミノ酸、16種類のミネラル、20種類のビタミンです。体に不可欠な蛋白質は20種類のアミノ酸の組合せでできていますが、このうち8種類は人間が体の中でつくることができません。

そこで食物からどうしてもとり入れなければならないので必須アミノ酸と呼ばれています。16種類のミネラルは鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン、ヨウ素、セレニウム、クロムなどといったものです。

20種類のビタミンとはビタミンA 、B 類、C 、E などです。これらのどれにも絶対必要水準というものがあり、このうちのどの1つがその水準以下になっても生命の鎖の強さ、つまり健康水準は低下したり、病気になったりするということです。

これらの栄養素のそれぞれが、「個人プレー」をしているのではなくて全体の鎖の1つ1つの輪となることで「チーム・プレー」をしていることは、ごく簡単な例を1つ挙げるだけでも理解してもらえるはずです。

外国のある大学で、夜盲症にビタミンAと亜鉛を与える実験が行われました。「夜盲症」(やもうしょう)とは、夜になると視力が著しく衰え、目がよく見えなくなる病気です。この実験では、夜盲症に効果が高いことがわかっているビタミンA だけを与えた時には、夜盲症が治る者もいましたが、治らない者も多数いました。しかし、ビタミンA だけでは治らない者も同時に亜鉛を与えると治ったのです。ビタミンAだけの個人プレーではなくて亜鉛とのチーム・プレーの大切さをこの実験は示しています。

ではなぜチーム・プレーだと夜盲症が治せたのでしょうか? 夜盲症に効果のあるビタミンAは肝臓に貯えられていて、それが必要な部署に運ばれます。しかし、運ぶためには運び屋の役割をする結合蛋白質なるものが必要だということが、いまではわかっています。そしてその結合蛋白質をつくるのに亜鉛は重要な役割をしています。

つまり亜鉛がちゃんととられていなければ運び屋がつくられず、せっかくのビタミンAも目に運ばれて夜盲症を治すことはできないということです。

いまの例ではビタミンA 、亜鉛、運び屋蛋白質の材料になる各種のアミノ酸(つまり蛋白質の構成要素)のチーム・プレーが夜盲症1つを治すにしても必要だということを示しています。

60年以上も前に肝臓病の治療食を考案したことで有名なパテックは、アル中タイプの肝臓病患者の場合にはビタミンAを与えても夜盲症は治らなかったといっていたのです。いまから考えるとパテックの方たちが亜鉛不足だったのは間違いないでしょう。

なぜならいまでは、アルコールが直接的に肝臓を悪くするわけではなく、アルコールの長期的常用が体内の亜鉛を食い荒らして亜鉛不足を起こし、それが肝臓へのダメージになるのだということがわかっているからです。

牛乳を1日に1リットルも飲んでいたのにひどいカルシウム欠乏症になった事例の報告があります。これも牛乳から大量のカルシウムをとっていても、カルシウムとチーム・プレーをする他の栄養素がアンバランスな食生活で欠乏し、その鎖の輪が弱くなっていたからです。

「血の疲れた」人間を増やすビタミン、ミネラル不足

半健康人が多いといわれる現代ですが、「肝臓では100以上の酵素がつくられている。そしてこれらの酵素がなければ汚れた血液はきれいにもされないし、失くなった分の再補給もされ得ません。要するにわれわれは生き続けられなくなるということです。

ガン患者が野草酵素という酵素を摂ることでガンを死滅させてしまう症例がいくつかあります。酵素を摂ることで体が正常化して元気になって免疫力を上げることは理にかなっているのです。

ではこういう酵素を肝臓の細胞はどうやってつくっているのかといえば、それはアミノ酸、ミネラル、ビタミンなどを原料にしてつくっています。これらの栄養素がそのまま酵素の材料だからです。ではこれらの栄養素の供給が不十分だとどうなるか。肝臓の細胞は与えられたものの範囲でベストを尽くすしかありません。

しかし、それでも血液は十分にきれいにはなりません。いまのような状況下では、血液中には軽度の有害物質が残り、その結果として、われわれはいろいろな種類の軽い~重い症状に悩まされることになります。体の中のどんな器官も組織も血液中の有害物質の悪影響からは逃れられません。その結果として、われわれは元気がなくなって「血が疲れた」感じになり、頭痛や気持ちの滅入り、消化不良、軽度の痛みなどに見舞われてしまいます。

現代人の痛みが増えているのは食事のせい | 酵素の健康メモ

つまりはこれらは肝臓の栄養不良が根本の原因になって起きるのです。そしてこんな症状は、肝細胞が本当に死滅する肝硬変その他の肝臓病よりはまだだいぶ以前の段階ですでに出てくるのです。

有害物質の解毒工場として肝臓が万全の働きをしてくれないとその害は体の全ての器官に及ぶのですから、いろいろな症状が出てきて当然です。そしてそれは、はっきりした病気として形に現われるずっと以前に起きる状態です。

半健康人のかなり多くは、たぶん「血の疲れた」人々なのだと解釈してよさそうです。「生命の鎖」を構成する1つ1つの輪のうちのどれかが弱くなるような、バランスの崩れた栄養のとり方が原因です。そしてさらに具体的に現代の状況を踏まえて、つぎのような意味の指摘があります。
一般的にいえば、現代先進国では蛋白質などの不足は少なく、むしろ過剰です。しかし、ビタミンやミネラルは絶対必要水準も満たしていない人が多いというのがだいたいの状況です。

国公益社団法人 日本栄養士会でも日本人学者が同じことを指摘

20年以上も前に日本で開催された国際栄養会議で見事な現役ぶりで参会の学者たちを感嘆させました。現代は過栄養と低栄養が共存するという矛盾した状況になっています。これはかつて例のない未曾有の状況です。この状況の解決には大変な努力が必要でしょう。

これは、「生命の鎖」のいい方でいえば、この鎖を構成するアミノ酸などのとり方は多過ぎるぐらいで、輪も過栄養で太過ぎるぐらいになっていますが、ビタミン、ミネラルの輪は低栄養で細過ぎ、絶対必要水準も満たしていないという意味です。

これでは1つでも弱い輪があれば鎖全体は弱くなるという「生命の鎖」の立場からすれば、血が疲れたり病気を起こしたりして当然です。

要するに現代の状況は「生命の鎖」の立場からして問題が多いということです。健康水準は大ざっばにいって「悪い」 「まあまあ」「よい」「きわめてよい」の4段階に分けることができますが、そ多くの人がこのうちの「まあまあ」の状態にあり、それで満足してしまっている現状です。

かつての日本の長寿村の長寿老人のように「きわめてよい」の部類に入る人はほとんどいません。これに対して年代が下がるほど弱くなっている日本の中年も、若者や子どもも、年々「まあまあ」からさらに「悪い」の部類に移行しているのです。

そしてその原因は「生命の鎖」の立場からすれば、バランスの崩れが年々ひどくなっているからということになります。現代人の動物性食品や砂糖の過剰、繊維の不足などといった現代の食生活の欠陥の修正が今すぐ必要です。

現代風の食生活とは、同時にビタミン、ミネラルといった栄養素の面からも「生命の鎖」を弱くしている食生活なのであることを忘れてはいけません。

目に見えないだけに見逃されやすい大問題

カロリーが不足すれば世界の食糧難地域で起きているような餓死という状況になります。これに対しビタミンやミネラルも極端に不足すれば、たとえば壊血病とか発育不全といった目に見える形になって現われるでしょう。しかし、ビタミンやミネラルの不足は「血が疲れた状態」ぐらいだとなかなか目に見えるような形で見えてきません。また例え目に見えるような形で現われるにしても、ビタミンC不足の壊血病やB1不足の脚気のように1つの栄養素とのストレートな関連として現われる場合はむしろ稀で、多くの栄養素との複雑なからみ合いの結果としてのものです。

いまのような理由によって、現代のビタミン、ミネラルの不足(病気という形ではっきりとは現われない潜在的欠乏状態)はとかく見逃されています。しかし、ストレートでかつ精密な証明はつかめなくても、少し常識を働かせれば、現代がこれら微量栄養素の潜在的欠乏時代であり、それが現代の健康水準のレベルを全般的に低下させる原因になっていたり、ある場合にはガンなど重大な病気を増やしているのは間違いないことがわかります。

ビタミンやミネラルの不足やアンバランスで健康水準を低下させている人が、現代ではかなり多いということは、ごく単純な事実によってもわかります。それはこういうものをビタミン剤とか栄養補助食品の形で補給することで、病気が治ったり体の調子がぐんとよくなっているという人が現代ではかなり多いということです。

こういう栄養物質をいわゆる健康食品の形でとることがベストかいなかはともかく、この単純な事実によってもビタミン、ミネラルの不足やアンバランスで血が疲れている人が多いことはわかります。病気にはなっていない程度のビタミンの潜在的欠乏症が、先頃の日本ビタミン学会でも大きな問題とされたのもいまのことを裏づけています。

また幾つもの調査がいまのわれわれにはカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄分、セレニウムといった有用なミネラルが不足していると指摘しています。この10年間に急速に悪化し、合格点をつけられる食事をしている人は10% も減りました。

アメリカでは政府当局などの熱心なキャンペーンによって多少は改善の兆しも見られました。心臓病は少しずつ減っているというし、肺ガンの死亡は86年にはここ50年間で初めて減少したのです。しかし、86年の幾つかの公式の報告書は、まだまだビタミン、ミネラルの不足が多いことを警告しています。

ビタミン、ミネラルは、現代の先進国では社会のシステムそのものからして不足するようにでき上がっていて、そのシステムそのものを変えるのは容易ではないのです。まだまだビタミンやミネラルの不足が多いというのが現時点でのアメリカの状況ですが、これは日本も同様です。さらに10年ごとに状況は悪化の傾向をたどっているとはさっきのアメリカ農務省の指摘ですが、それは「ふるいの目」が時代とともにますます細かくなってきたからです。

「ふるいの目」は文字どおりふるいの目であって、単純で工業的、機械的なものでした。しかし、20世紀文明の進歩はそれを化学的な「ふるいの目」にしたりして食品の加工度をますます高めたり、加工食品をつくったり、添加物を発明したり、農業そのものの化学化を進めたりして食品の中味そのものまで変えてきたのです。われわれは今そんな中に生きているのであって、これでビタミンやミネラルの不足やアンバランスが起きなければ不思議です。
ビタミン Q & A

コメント

  1. […] 「時代はこんなに便利になったのに病気が増えてしまうのはなぜ」では、潜在的欠乏症が増えたり、由々しき重大事になっていることがわかりましたが、理由はだいたいつぎのようなこ […]